放射線治療棟
病気の中で最も死亡率が高いがん。その治療は「手術療法」「化学療法」「放射線治療」と大きく3つに分かれます。
3大療法の中でも、当院において目覚ましく発展しているのが放射線治療です。2015年9月、世界で数機しかないサイバーナイフM6を日本で最初に導入してから約2年。2018年1月、放射線の形や強度を変化させる最新の放射線治療装置トゥルービームが導入され、両装置を完備する県内唯一の病院となりました。
高精度放射線治療装置
「トゥルービーム」
米国「バリアンメディカルシステムズ社」の最新鋭放射線治療装置。
放射線治療装置に内蔵されたエックス線画像装置を用い、高精度に放射線治療を行います。脳腫瘍など小さな病巣へのピンポイント照射を得意とするサイバーナイフM6(定位放射線治療)に対し、トゥルービーム(強度変調放射線治療)は広域にわたる大きな病巣への照射も短時間で安全に行います。
両装置が揃うことにより、トヨタ記念病院における放射線治療の適応範囲が拡大しただけでなく、がん治療の可能性や選択肢も大きく広がりました。
トゥルービーム
強度変調放射線治療
(Intensity Modulated Radiation therapy : IMRT)
放射線治療では「がん」のみに放射線をあてることが理想です。しかしながら、がんの周囲には正常な部分や健康な臓器が多く存在します。できるだけ正常な部分には少なく、がんの部分には集中するような技術、方法が必要であり、これを可能にしたのが「強度変調放射線治療(IMRT)」という方法です。
従来の放射線治療は、一定方向から均一の放射線を照射していました。周囲の正常な部分にも多くの放射線があたってしまうため、がんに十分な放射線をあてることが困難でした。対して、強度変調放射線治療(IMRT)は、コンピュータの力を借りて照射する方向によって、放射線の量、強さを緻密に変化させ照射する方法です。これにより、周囲の正常な部分にあたる放射線の量を抑えながら、がんそのものに多くの放射線をあてることが可能になりました。
前立腺がんの放射線治療の場合(線量分布)
前立腺の周りには放射線があまり当たってほしくない膀胱や直腸があります。下図の右に行くにつれて、前立腺の周りにある膀胱や直腸に当たる放射線の量が少なくなっています。
※色が付いているところが放射線が当たっているところ。
赤:強く当たっている
青:弱く当たっている
4門治療
IMRT
VMAT
当院においては、治療装置を回転させながら強度変調放射線治療(IMRT)をおこなう、強度変調回転放射線治療(Volumetric Modulated Arc Therapy : VMAT)を実施しており、今まで10分から15分ほどかかっていた1回の治療時間が1分から2分ほどで終了することができるようになりました。
TrueBeamで体内の「見える化」
TrueBeamは治療するベットに寝たまま装置が体の周りを1回転するだけで、CT写真(断層写真)を撮影することができるようになったため(Cone Beam CT 写真参照)、X線写真では見えなかった軟部組織のがんが金属マーカーを埋め込むことなく位置を同定して放射線を照射することができるようになりました。また、金属マーカーを埋め込まないため、患者様にやさしい非侵襲的な治療をすることができるようになりました。
X線写真(前立腺部)
TrueBeamのCone Beam CT写真(前立腺部)
ExacTrac®システム
ExacTracシステムは高精度の赤外線カメラと2つのX線撮影装置を用い、迅速で正確な患者様の位置合わせが可能です。また治療中は常に患者様の位置を赤外線カメラで監視していますので、治療中、患者様が動いてしまった場合などは、直ちに治療を中断することができるため、安全に治療することが可能です。
X線撮影装置
赤外線カメラ
左乳房に対する深吸気呼吸停止(Deep Inspiration Breath Hold; DIBH)照射
心臓の被ばく量の増加は将来的な心疾患のリスクを高めることが知られています。左乳がんの術後放射線治療を行う際、多くの症例では、通常の自由呼吸下での照射は心臓(心膜や冠動脈)の一部が照射範囲内に含まれてしまいます(図左)。
当院では2018年11月より左乳房の深吸気呼吸停止(DIBH)照射を実施しています。大きく息を吸うことで肺が膨らみ、心臓を照射範囲から離すことが可能になります。息止めしていただいている間に照射を行うことで心臓の被ばく量を下げることができます(図右)。
ただし、全ての症例では実施しておらず、患者さま一人ひとりの状態やご希望に合わせて呼吸停止照射の実施の可否を検討し、皆さまに安全安心の放射線治療を提供できるよう努めています。
(左)自由呼吸CTを用いた治療計画.心臓が照射範囲(赤~青の領域)に含まれている。
(右)深吸気呼吸停止CTを用いた治療計画.心臓が照射範囲から外れている。
トゥルービームによる放射線治療(動画)
定位放射線治療装置
「サイバーナイフM6」
最新の放射線治療装置「サイバーナイフM6」を導入、2015年9月より放射線治療棟で新たな放射線治療を開始しました。
当院は日本で初、世界でもまだ数機しかない最新鋭の定位放射線治療装置「サイバーナイフM6」を導入しました。サイバーナイフシステムは定位放射線治療を低侵襲に行うために設計されており,あらゆる方向から放射線を腫瘍に当てることで、周囲の正常な組織への影響を最小限に抑えることが可能になります。
サイバーナイフM6
治療計画
放射線治療を開始する前に2方向から腫瘍周囲のX線画像を取得し、あらかじめ計画した通りの位置に放射線を当てるように位置補正を行います。治療中においても、X線画像を適宜取得し、正確な位置情報をリアルタイムに算出します。この位置情報を基にロボットアームが腫瘍の位置ずれに対し補正を行うため、常に腫瘍を高精度に捕らえることができ、その精度は1ミリ以内とされています。
サイバーナイフの特徴
サイバーナイフは呼吸により動いてしまう腫瘍に対しても、ロボットアームが腫瘍を自動的に追尾しながら放射線を当てるシステムを有しているため、患者さまは息止めやお腹の圧迫をすることなく、自然な呼吸をしながらでも高精度な放射線治療を受けることができます。
最新モデルであるサイバーナイフM6は6世代目のサイバーナイフであり、新たにマルチリーフコリメータ(MLC)が追加されました。従来は円形の放射線を用いて治療をしていましたが、MLCが搭載されたことにより腫瘍の形状に整形した放射線を当てることが可能となります。この機能を用いることで、より効率的に放射線を腫瘍に集中させることができ、治療時間の短縮も期待されます。
マルチリーフコリメータ(MLC)
サイバーナイフM6による放射線治療をVR(Virtual Reality)で模擬体験
サイバーナイフM6による実際の放射線治療を模擬体験することが可能になりました。放射線治療は痛みのない非侵襲的な治療であるため、この模擬体験によって、実際の放射線治療と変らない体験をすることが可能です。
- ※実際の治療時間は20分~40分くらいの治療時間となります。
- ※VR専用ゴーグルもしくは画面を移動させることにより、360度全方位を見ることが可能です。
- ※この動画360度全方位動画を視聴するには、Chrome, Opera, Firefox, MS Edge最新バージョン、YouTubeアプリの最新バージョンが必要です。
前立腺がんの定位放射線治療
前立腺がんに対する放射線治療の標準的な治療方法は、1日1回、2Gy(グレイ)という放射線の量を37回~39回、計74~78Gyを前立腺に照射することが多く、照射だけで、7~8週間と約2ヵ月間の治療期間が必要となります。近年、同等の治療成績が報告されている定位放射線治療※(1日1回、7.25Gy×5回、計36.25Gyを照射)が国内において実施されるようになりました。また、2016年より、前立腺がんに対する定位放射線治療も健康保険が適用されるようになり、保険の範囲内での治療が可能となりました。
- ※治療回数が極端に少なくなることから、超寡分割照射(Ultra-Hypofractionated Radiation Therapy)とも言われています。
当院においても、2017年6月より前立腺がんに対する定位放射線治療を開始しました。
前立腺がんに対する定位放射線治療の1回の放射線の量は、標準的な治療方法である2Gyから7.25Gyに増加した為、正確に前立腺に放射線を照射し、周囲の臓器には放射線を極力照射しないようにする必要があります(図)。しかし、照射中に前立腺が動いてしまったり、周囲の直腸や膀胱の位置や形が変わってしまうことがあります。その為、当院においては、前立腺の中に金マーカーを植込み、そのマーカーを目印に前立腺をサイバーナイフで追尾しながら照射しております。さらに、患者様と医療スタッフが協力し、便の回数や状態、尿の量の調整により、直腸や膀胱の位置や形が毎日同じようになるように努めております(なぜ直腸や膀胱の位置や形が重要なのかの疑問は こちら )。
照射回数が5回になることにより、患者様の通院の負担が減り、日常生活にほとんど支障なく前立腺がんの放射線治療がおこなえるようになりました。
- ※治療の準備のために別途複数回来院して頂く必要がございます。
詳しくは 実際の治療の流れ をご覧ください。
暖色:強く放射線が当たっている
冷色:弱く放射線が当たっている
前立腺部分に放射線が強く当たり、周りの直腸、膀胱、尿道にはあまり放射線が当たっていない。
サイバーナイフによる放射線治療(動画)
放射線治療について
日本放射線腫瘍学会(JASTRO)からがんの放射線治療についての紹介動画「アニメで学べるがんの放射線治療」が公開されています。がんに対する放射線治療の作用、放射線の当て方、放射線治療適応部位などわかりやすく説明されています。
日本放射線腫瘍学会(JASTRO)「アニメで学べるがんの放射線治療」
https://www.jastro.or.jp/animation/
当院は安全かつ高精度の放射線治療を推進する施設としてJASTROの認定施設になっています。
放射線治療における品質管理
放射線治療は「目に見えない放射線」を「外から見えない体の中のがんや腫瘍」に正確に当てる必要があります。近年、放射線治療装置や放射線を当てる技術の向上により、一度に多くの放射線をがんや腫瘍に当てることが可能となり、放射線治療はがん治療の一つとして重要な役割を担っています。一方で、装置や技術の複雑化や業務の増大化、煩雑化という問題も生じてきました。そのため、安全、確実に放射線を当てるために装置、技術の精度管理や品質管理、品質保証、業務の効率化などが重要となります。
当院においては日本放射線腫瘍学会や米国医学物理学会のガイドラインを参考に、当院に最適な品質管理プログラムを作成し、装置、技術の精度管理、品質管理、品質保証を行っています。またトヨタ生産方式を取り入れ、煩雑な業務を「ムリ、ムラ、ムダ」なく効率的に行えるようなシステムを構築し、日々、安全で、高品質な放射線治療をスムーズに提供しています。
放射線治療品質管理委員会
2014年9月、放射線治療の総合的観点から、専門的な知識を基に、品質管理、放射線治療の安全性の向上に関する各種の重要事項を審議し、決定することを目的とした放射線治療品質管理委員会が設置されました。委員会は年2回定期的に開催され、品質管理や放射線治療の安全性の向上はもとより、患者様へのサービス向上や接遇についても話し合われます。
第三者機関による出力線量評価
放射線治療の品質保証は自施設のみならず、客観的な第三者機関にも評価してもらうことにより、より安全、確実に患者様に放射線治療を提供することができます。当院では第三者機関(公益財団法人 医用原子力技術研究振興財団)に放射線治療装置から出力される放射線量の測定を依頼し、正確に出力されているという証明書を受けております。
医用原子力技術研究振興財団からの証明書
医療従事者向けコンテンツ
業務の効率化
当院の放射線治療はトヨタ生産方式を取り入れ、「ムダ、ムラ、ムリ」をすることなく、より安全でより高品質の放射線治療を提供できるように、日々「カイゼン」を行っています。
高精度放射線治療は、複雑なプロセスに加え、高度な治療計画や安全を担保するための品質管理により、患者さまに照射するまでのリードタイムが長くなってしまいます。そのため、安全と品質を担保しつつ、一つひとつのステップ(工数)の効率化や削減により、リードタイムを短くするような取組みを行っています。
その一環として、放射線治療計画支援装置「MIM Maestro」で作成したワークフローをご紹介します。
肺・気管支自動輪郭描画ワークフロー
領域拡張機能を使用した輪郭抽出においては、左右の肺が一部つながっていたり、気管と肺が予期せぬ箇所でつながっていたりと、修正作業というステップを完全に減らすことができません。このワークフローを用いることで、修正作業というステップを短縮または削減することが可能となります。結果としてリードタイムが短くなり、さらにスタッフ間の品質のばらつきもなくなりました。
ワークフローのダウンロードは こちら
- (注)このワークフローはMIM maestro バージョン6.8.3で作成されています。
当院の放射線治療における効率化について、詳しくは MIM software Inc.のウェブサイト をご覧ください。